井上陽水の「青空、ひとりきり」 1980年代を準備したもの
陽水の1970年代前半までの作品については、比較的評価が安定しているのに対し、1980年代以降の作品と音楽活動については、評価が分かれるようである。
たしかにわかりやすい「叙情性」という意味では「心もよう」「人生が二度あれば」「傘がない」など、初期の作品に評価が集まるかもしれない。
しかし、そのような意味での叙情性は、たとえば最近の韓国ポップスにも優れたものが多数見られ、とりわけ陽水の卓越性を示すものとは思えない。
それらは伝統的な世界で培われてきた関係を下敷きにしている。ただ、彼らは失われつつある世界を懐かしんで歌ったにすぎない。それは「想い出」の世界にすでに存在したものであり、なんら新しい時代を築くものでもない。
陽水が他の追随を許さず、聳える峰として見えてくるのは、むしろ1980年代からの、取りようによっては遊び半分とも見える作品の数々である。
陽水の「青空、ひとりきり」はその意味で彼のターニングポイントになった作品と私には映る。
作品は最近では、彼の Golden Album に収録されている。
それこそ、「青空の下にいる作者自身を描いた」だけの歌詞を格別新しくも思えない旋律に載せている。
しかし、彼特有の明るく高い声が突き抜けた青空のイメージと重なり、まるで陽光がハレーションを起こしたような「深い闇」と「空虚」を聞く人に突きつけてくる。
1970年代後半は彼にとって寡作の時代である。今思えば新しい音楽を求めて模索を続けていた、苦しい時代であったかもしれない。この後、1980年代に入って、彼はもはや地方の人々の中央への動機と情動に支えられた「出郷」の人ではなく、まったく新しい都会の人として、ユニセックスの歌を提供していったと、私には見える。
*********
以下のページには、この曲の率直な感想が綴られています。
14/oct/2005
http://www.opus9.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/66
抒情という概念について、再考の必要があり、それにもとづき改稿の必要がある。
たしかにわかりやすい「叙情性」という意味では「心もよう」「人生が二度あれば」「傘がない」など、初期の作品に評価が集まるかもしれない。
しかし、そのような意味での叙情性は、たとえば最近の韓国ポップスにも優れたものが多数見られ、とりわけ陽水の卓越性を示すものとは思えない。
それらは伝統的な世界で培われてきた関係を下敷きにしている。ただ、彼らは失われつつある世界を懐かしんで歌ったにすぎない。それは「想い出」の世界にすでに存在したものであり、なんら新しい時代を築くものでもない。
陽水が他の追随を許さず、聳える峰として見えてくるのは、むしろ1980年代からの、取りようによっては遊び半分とも見える作品の数々である。
陽水の「青空、ひとりきり」はその意味で彼のターニングポイントになった作品と私には映る。
作品は最近では、彼の Golden Album に収録されている。
それこそ、「青空の下にいる作者自身を描いた」だけの歌詞を格別新しくも思えない旋律に載せている。
しかし、彼特有の明るく高い声が突き抜けた青空のイメージと重なり、まるで陽光がハレーションを起こしたような「深い闇」と「空虚」を聞く人に突きつけてくる。
1970年代後半は彼にとって寡作の時代である。今思えば新しい音楽を求めて模索を続けていた、苦しい時代であったかもしれない。この後、1980年代に入って、彼はもはや地方の人々の中央への動機と情動に支えられた「出郷」の人ではなく、まったく新しい都会の人として、ユニセックスの歌を提供していったと、私には見える。
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以下のページには、この曲の率直な感想が綴られています。
14/oct/2005
http://www.opus9.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/66
抒情という概念について、再考の必要があり、それにもとづき改稿の必要がある。
この記事へのコメント
トラックバックをいただきありがとうございます。
ふしぎなお名前のお方、トラックバックありがとうございます。また、ゆっくり訪問させていただきます。
SinglesReview(136)「青空、ひとりきり」(井上陽水1975年)☆陽水のこの歌。その歌詞に最初に反応したのは寺山修司だった。寺山が何に興味を持ったのか定かではないが、彼が「ひとりきり」が対置するもの(青空・浮雲・星屑)との「関係性」を意識していたのではないか... ...続きを見る
執事ステイション顕彰館 =365面体倶楽...
2005/02/10 18:14
高橋悠治とリパッティの弾くバッハさえあればよいと思っていた季節もあった。しかし、今は新しい音楽も聴いて、時代の風を感じていたい。 井上陽水の曲を14人の歌い手(またはグループ)がカバーしたCDが発売されてすでに半年近くたつ。いくつかの幸福な偶然が重なって、それを知って手にすることができた。気分の赴くまま書いたいくつかの文章をブログにアップした。それらにいまだにアクセスがある。 ...続きを見る
こころの交差点:木陰の補習教室@Webr...
2005/05/04 05:23
ひさしぶりに東京に出てきて、あらためてめっきりセルフな喫茶チェーンのお店が増えたなとおもう。スターバックス効果というやつかもしれない。同珈琲チェーンが国内に登場したのが1996年夏、銀座である。この一号店の記憶はじつはあまりない。前後しておなじような形式の... ...続きを見る
ナイチンゲール・カンパニー
2005/06/20 11:33
井上陽水 1948年8月生まれ 田川西高等学校 1965年4月
筑豊の炭鉱閉鎖の時期
陽水の時代
https://crossroad.at.webry.info/201910/article_3.html