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旧暦。 一日、二日、とつづいて、三十日、晦日に達する。そして、その次は一日(朔日)。 あたりまえ。と思っていたけれど、二十九日で終わる月もある。そういえば、月が地球を一巡するのには30日はかからなかったとどこかで聞いていたはずだ。旧暦のこの正月は30日まで続き、そして、今日はきさらぎの朔日。 例の騒ぎの餅屋が、朔日餅というのを予約制で出していたことを思い出す。 月はない。歩く方向にオリオン座が見える。そして頸をぐぐいと持ち上げればふたご座。流星群の観測でなじみとなった。 花の香りがする。 低い植え込みから。そして、どこからともなくふわりと覆うように。 老母を見舞う。藝術新潮の最新号を携えて。特集の楽吉佐衛門は同年生まれ。目の疎い母に、写真を見せ、拾い読みをして聞いてもらう。 母の父は屋内に茶室を持ち、書画を集め、絵師を招き、襖絵をしつらえ、道具を集め、自らも土を捻って楽焼の茶碗をつくる趣味人であった。内海の半島が海運で栄えたかの時代には、かような人々がいくたりもいたのであろう。 記憶に残るのは、学徒動員先の工場で爆撃に遭い亡くなった娘とともに写真となって小さな仏壇に納まっていた姿である。そして、幼い娘二人を伴い母がその母や妹、弟の暮らす家に通ったのは、その父の死からも、そして、妹の死からさえもいかほども経ってはいなかったはずである。 松林に鳥の舞う襖絵と、訪れるたびに掛け替えられている軸や、広い庭に面した広縁。母が自ら老いてなお惜しんだそれらは、歳月とともに朽ち果て、その母、弟、その伴侶と次々と身罷った果てに消滅した。 |
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